劇場スタッフクレジットのススメ

「創り手の顔が見えるモノ創り」

を目指して

 

〜スタッフ氏名を公開する〜

 

貝塚市文化振興事業団/コスモスシアター
専務理事兼制作室長 山形裕久

  


スタッフ表記への経緯

我々 が日頃携っている、舞台芸術の非日常的な演出空間や創造制作支援の仕事は、観客に夢を売る仕事の手足だと言い聞かせていた頃もあった。確かに、数多くの作 品造りに参加し、公開された作品を観た人に感動や夢・希望を与えていただろう。そのため、時には自分を犠牲にし、偽り、職人気取りの鎧を纏い、綺麗ごとの ために失った物もある。しかし、それ以上に、得た経験と知識や知恵は、自分にとってより大きな自信に繋がったように思える。「今、時代の流れと現状と未来 を見据え、職務の遂行と個人の充実を考えてみても良いのではないか。」と自問して思い当たったのは、映画やTV番組の仕事に携っていた時に、エンドロール に自身の名前が出るのを嬉しく思い、次の仕事に対する励みと自信に繋がったことである。それが何時しか、自信から大きな責任感へと変化したのは当然のこと である。

7 年前に公立文化施設に職責を移し、制作室において小屋守と事業の企画制作の指揮を執ることになったが、自主制作の創造作品を、ホールから文化庁に助成金の 申請をする場合に、「芸術監督またはこれに準ずるスタッフを有すること」や「舞台芸術に関する企画・制作について相当の実績を有すること」及び「文化会 館・劇場・ホール等においては、舞台公演に関する企画・制作についてそれ相応の知見と経験を有する人材が配置されていること」などの基準を設けた創造性に 高い公演を支援するものがある。

たまたま過去の作品において自身の名がクレジットされていたことが幸いし、これらのハードルをクリアーできた経験から、スタッフのキャリアの蓄積証明の一つになればと考え、当館(コスモスシアター)では公演に携わるすべてのスタッフ名の表記に踏み切った。

こ れはスタッフの意識の向上と、延いては裏方の社会的立場のさらなる確立を図るために、必要不可欠だと思っている。また「観客(市民)」にとって顔の見えな い「裏方」の氏名を、ポスターやチラシ等の宣材にQRコード化したものを掲載、ホームページにおいてはフルネーム(社名入り)で表記をすることにより、重 要課題と考える「創り手の顔が見えるもの創り」を確立し、創造活動において、市民とより一層の意識の共有が必要と考えたからである。



出来て当たり前をどう捕らえるか

劇 場を管理運営し公演を実施するに当り、数多くのスタッフが共に働いている。早朝より清掃して開館準備をするクリーンスタッフや、チケットセンターに防災セ ンターなども直接的なかかわりではないが、公演を支える重要なセクションである。例えば防災センター管轄の空調等に関して、仕込み時の暑い寒いや、スモー クマシーンやドライアイスを焚く時の空気の流れ、幕類の昇降時のあおり具合などで、始めて気になってくる。観客席の温度管理では、1階と2階の温度差につ いても、防災センターの任切りではないだろうか。

創 造・制作現場では、プロデューサや演者・演出家などの多種多様な要求に、舞台監督をはじめとする全スタッフが知恵を出し合い、信頼関係の中で作り上げて行 く。また、ツアークルーを迎えての現地支援作業時の増員スタッフとなると、最悪の状況では仕込み作業の労力軽減と、時間短縮のための頭数の話になるが、演 出空間に技術、視覚、聴覚、感覚的な全てにおいて最高の環境を整え、演者に提供する。裏方である以上は、出来て当たり前のことで当然±0である。演者は演 じきり、裏方は創造を支えきり、観客に大きな感動を与えるために、個々の能力と責務を集結する。終演後、自身の役割を果し、大いなる自己完結ができるかど うかの、意識改革が必要ではないだろうか。



クレジットによる心地よい緊張感

指 定管理者制度の導入により有期限の身分保証になり、制作や技術の人材育成の先行きに不安が残ると共に、劇場職員や、創造事業を意識しない企業の参入によ り、厳しい状況下に突入した舞台技術専門会社のスタッフとは、若干の立場の違いはあるが、クレジットされることで、コスモスシアターでは職員はじめ舞台芸 術支援員(当館の舞台技術スタッフの名称)や、ホールで働くすべてのスタッフに程良い緊張感が、生まれているようだ。

自身も、改めて自主創造事業のチラシやポスターに印刷されているQRコードを見て、襟をただし、気持ちが引き締まる思いである。

劇場を中心に働く、数多くのセクションのスタッフに思いが浸透し、互いの立場の尊重と、敬意の中から舞台芸術の制作環境を整えたい。

また、当館が全公文に提案している「公共文化施設舞台芸術研究会/SASA」が制作する音楽企画公演を通じて、各地の舞台技術スタッフと出会い、技術支援や共同制作にも参加していただきたく思う。